経済環境常任委員会として、大分市内で唯一の大規模スプレー菊農家を視察しました。
総事業費約10.4億円を投じた最新鋭のハウスで栽培される菊の出荷単価は、わずか1本75円!
現場で直接伺った声から、一次産業が抱える構造的な課題を整理します。
1. 大分市を代表する菊農家
今回視察したのは、平成16年に愛知県から花き参入企業として大分県に入植した有限会社「お花屋さんぶんご清川」です。
現在、キク35,000平方メートルの施設栽培に加え、カボス44,000平方メートルの露地栽培も手がけています。従業員は約20名で、地域の貴重な雇用の受け皿となっている存在です。
このうち、大分市園芸振興総合対策事業では、栽培用ハウス20,608平方メートル、育苗用ハウス1,608平方メートル、集出荷貯蔵施設840平方メートルを整備しています。
2. 巨額投資を阻む厳しい単価
この事業の総事業費は約10.4億円です。内訳は、国費が約4.7億円、県費と市費がそれぞれ約1.2億円ずつ、事業者の自己負担は約3.3億円であり、全体の約7割にあたる約7.1億円が公金で賄われています。
目標とする年間生産量240万本に対して販売額は1.8億円。単純計算すると、菊1本あたりの単価はわずか75円です。年間売上1.8億円の事業において、3.3億円の自己負担分を回収しつつ20名近い従業員の人件費を支払い続けることは、決して容易ではありません。
公金による下支えがなければ、このような大規模な施設園芸への参入自体が成立しない。これが施設園芸農業の実態です。
3. 家族葬増加に伴う需要激減
菊の最大の出荷先は葬儀です。しかし、葬儀の形は大きく変わりました。
農園主によれば、かつて喪主が50代であった時代は会社関係から多くの花が出され、1軒あたり最大4万円分もの花が使われていました。ところが現在は、90代で亡くなれば喪主も退職後で会社との繋がりが途切れており、家族葬が中心です。1軒あたりの花の使用量は100本から200本程度にまで減少しています。
さらに、国際情勢に起因する食料品価格の高騰が追い打ちをかけています。消費者の支出が生活必需品に向かい、花のような装飾品は後回しにされる傾向が強まっています。
4. 人手不足を救う外国人就労者
この農園では、従業員約20名のうち9名が外国人です。日本人は農園主夫婦と孫、残りは地元のパート従業員です。
スプレー菊の栽培には、脇芽を1つずつ手で掻き取る繊細な作業があります。熟練者は手元を見ずに指先の感覚だけでこなしますが、この工程だけでも膨大な時間を要します。炎天下や厳寒期のハウス内でこうした作業を黙々と続けられる日本人の確保は、現実として極めて困難です。
外国人就労者に関する議論はさまざまあります。しかし少なくともこの現場では、彼らの存在なしに事業が成り立たないという厳然たる事実があります。排他的な言説を語る前に、まず現場の実情を知ることが不可欠です。
5. 米騒動とも共通する低価格問題
昨今の米不足が浮き彫りにした教訓は、長年にわたる買い叩きが生産者の離農を加速させ、供給力そのものを毀損してしまうという悪循環の構造です。
菊においても全く同じ構造が見えます。農園主によれば、移住した当時に産地で1,200軒あった農家が、現在は400軒にまで減少しました。市場価格が安く抑えられ続ける限り、後継者は現れず、残った農家に負担が集中するだけです。
農園主は「残れば勝てるかもしれない」と語っていました。しかし、その勝利が公金投入を前提としなければ成立しないのであれば、それは果たして健全な産業構造と言えるのか。
ここに一次産業全体が突きつけられている現実的な課題があります。
6. 現場から始める新たな合意形成
今回の視察を通じて改めて痛感したのは、一次産業の課題は単純な二項対立では語れないということです。
- 補助金に依存する構造は問題だが、補助金がなければ産業自体が消滅する
- 外国人就労者への依存には懸念があるが、彼らなしでは現場が回らない
- 市場価格を上げれば消費者の負担が増すが、据え置けば生産者が退場する
こうした複雑に絡み合う現実に対して、極端な議論で白黒をつけても何も前に進みません。
まずは現場の事実をありのままに受け止め、行政・議会・市民がそれぞれの立場で何ができるのかを冷静に議論していく。その積み重ねこそが、持続可能な農業の仕組みづくりへの第一歩だと考えています。





