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避難所に全員は入れません

「小学校区単位で避難の体制を整えるべきで、それを市が主導して進めてほしい」

このような要望を地域の方から頂きました。

防災への思いには賛同しました。ただ、行政に求める部分については、その場でうまく答えられませんでした。

持ち帰って市に確認しながら考えたことを整理します。

1. 校区単位の避難計画の必要性

ご要望の趣旨は、災害が起きたとき校区の単位で住民が避難できるよう、あらかじめ備蓄や運営の体制を整えておくべきだというものでした。

備えが足りないという問題意識は、そのとおりだと受け止めています。

引っかかったのは、それを市が主導すべきだという部分です。防災意識を高めることに反対する理由は1つもありません。

ただ、担い手を行政に置くことが最善なのかどうか、その場では判断がつきませんでした。

2. 市が自助を最優先に置く理由

市の担当課に確認しました。

避難所の運営については、市が職員を配備します。一定の備蓄品もあります。その一方で、備蓄品については、まず市民自身が自分の身を守る自助を最優先に考えてほしいとのこと。

市としても、自助が十分に浸透していないことは課題として認識しています。

ここで出てくるのが3日間という目安です。災害が起きてから、行政の支援が本格的に届くまでにはおよそ3日かかります。

発生直後は人命救助が優先されるためです。

救助の現場では72時間の壁と言われます。阪神淡路大震災では、救出された方の生存率は1日目が74.9%だったのに対し、4日目には5.4%まで下がりました。

この3日間に救助の力を集中させる必要があるため、物資の配送はどうしても後回しになります。

ご要望をくださった方が不安に感じていたのも、まさにこの3日間でした。

ただ、各家庭で3日分の水と非常食を用意できていれば、この3日間は避難所に頼らずに乗り切れる。

自助が徹底されるほど、避難所の必要性は下がる。そういう関係にあります。

3. 自宅にとどまるという選択

もう1つ、忘れてはならないことがあります。

自宅が無事なら、無理に避難所へ行く必要はありません。

昭和56年6月以降に建築確認を受けた住宅は、新耐震基準が適用されています。震度6強から7の地震でも倒壊や崩壊をしない設計です。

それ以前の旧基準は震度5程度を想定したものでしたから、考え方が大きく変わりました。熊本地震の被害調査でも、旧基準の木造住宅の倒壊率は新基準より明らかに高く、国土交通省の委員会は新耐震基準が倒壊防止に有効だったと認めています。

そのうえで、収容の問題があります。1つの校区の住民全員が体育館に入ることは、そもそも面積として不可能です。

自宅が安全なら避難所には行きたくないというのが自然な感覚でしょう。

だとすれば、備えるべきは全員分ではありません。

どういう事情の方が避難所に向かうことになるのか、その人数を見定めるほうが現実的です。

4. 町内会ごとに生まれる備蓄の差

校区単位で防災力を高めるのは、実は簡単ではありません。

理由の1つが、町内会ごとの温度差です。熱心に備蓄を進めているところもあれば、手が回っていないところもあります。

ここで起きうるのが、配分の問題です。自分たちで買いそろえた物資を避難所に持ち込んだとき、備えのなかった町内の方と等しく分け合うことになります。

多く持ち寄った側に割り切れなさが残るのは、責められない感情ではないでしょうか。

いただいたご要望は、この事態を見越したものでした。だからこそ事前に体制を整えておくべきだという主張です。

筋は通っています。

意見が分かれたのは、どこまで備えるのかという線引きでした。想定外の事態にどこまで先回りするのか。

ここについては、私も答えを持ち合わせていません。

5. 行政が主導したときに起きること

市が校区防災を主導する場合を考えてみます。

施策として進める以上、市はすべての地域を同じように扱わなければなりません。ところが自治会の体力は一律ではない。

役員のなり手が足りず、日常の運営で手一杯というところもあります。

余力のある地域を基準に制度を組めば、追いつけない地域が置き去りになる。逆に余力のない地域に合わせれば、進んでいる地域の足を引っ張ります。

誰かが怠けているわけではなく、地域ごとの前提が違うだけです。だからこそ、行政が旗を振る形にすると、バランスの取り方が難しくなります。

このあたりが、私がその場で答えられなかった理由です。防災の必要性は明らかなのに、担い手を行政に置いた瞬間に別の難しさが立ち上がってきます。

6. 自助から共助へと進む順序

現実的な手順は、段階を踏むことだと考えています。

◼️ 自助:まず自分の命を自分で守る。水と食料を3日分用意しておく
◼️ 共助:自助で足りない部分を、日ごろの近所付き合いで補い合う
◼️ 避難所:それでも難しいときに向かう場所

順番が大事です。避難所を最初の選択肢にするべきではありません。

避難所に入ってからも共助は必要です。 有事に自分の町内の物資は渡さないという考えには、私は反対します。分け合わなければ成り立たない場面が必ず出てきます。

そのうえで、日ごろ自主防災会の単位で備蓄を進めておくことが、いま取りうる現実的な解だと考えています。

とはいえ、災害はなかなか起きません。起きないものを意識し続けるのは、正直なところ難しいことです。

だからせめて、自分の身は自分で守るという一点だけは、頭の片隅に置いてください。

水を3日分。まずはそこからで十分ではないでしょうか。

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