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なおきの「思考の深掘り」vol.4 地方創生の不都合な真実

日本の危機は、ある日突然やって来るものではない。派手な破綻も、劇的な崩壊も起きない。代わりに、制度の歪みと意思決定の先送りによって、静かに、しかし確実に衰弱していく。その全体像を冷静に言語化した対談がある。

語り手は、旧大蔵省に1985年入省し、主計局・理財局・内閣府を歴任した後、現在は明治大学で公共政策を教える田中秀明氏。彼の語りは、感情論でも思想でもない。「制度としてどうなっているか」「なぜ誰も止められないか」という一点に集中している。

◾️官僚の欠陥は透明性を捨てたこと

本来、財務当局が政治の圧力に対抗できる唯一の武器は、数字と透明性である。予算の現実を国民に示し、「これ以上は無理だ」と説明することができれば、政治家も簡単には無理を言えない。

しかし日本では、それが行われなかった。代わりに行われてきたのが、水面下での調整、いわゆる「寝回し」である。透明性を高めれば政治家の利権が明らかになる。だから出さない。その結果、国民は実態を知らず、議論は常に感情論に流れる。この構造が何十年も温存されてきた。

人事制度も同様である。官邸主導の人事が強まったことで、上に逆らえば飛ばされるという空気が蔓延した。悪い情報ほど共有されず、結果として政策判断の質が落ちる。これは日本固有の問題ではなく、制度設計の問題である。

◾️政治主導は準備なくやると失敗する

民主党政権への失望も、ここに直結する。理念は理解できたが、準備がなかった。普天間基地問題も、消費税増税発言も、党内の合意形成も制度設計もないまま突然打ち出された。その結果、政策は頓挫し、国民の信頼も失われた。

本来あるべき順序は明確である。まず無駄を削る。その上で、足りないなら増税の議論を始める。その説明を、数字で、時間をかけて行う。それを飛ばした政治主導は、単なる思いつきに見えてしまう。

◾️人口減少という確定した未来

この対談で最も重い前提は、人口減少が「予測」ではなく「確定事項」として語られている点である。今後50年で、日本の人口は約4600万人減る。生産年齢人口は3200万人減る。首都圏と一部の中核都市を除き、地方は半減、地域によっては3分の1以下になる。

にもかかわらず、地方創生計画では「出生率2.0超」が前提とされた。理由は単純である。現実的な数字を書くと、国からの交付金が減らされるからである。自治体も国も、この虚構を黙認した。その結果、子育て支援は自治体間の奪い合いになり、日本全体では何も変わらなかった。

◾️建てた方が得になる財政制度

地方で税金が溶ける最大の理由は、首長のモラルではない。制度である。10億円の施設を建てても、自治体の実質負担は1割以下。残りは補助金と、後で国が面倒を見る地方債である。経済合理性がなくても、建てた方が得になる。

この構造が、不要な公共施設を量産してきた。一方で、将来の維持費は確実に残る。結果として、次の世代にツケが回る。

◾️賢く縮むという最も難しい選択

人口減少社会で現実的な戦略は3つしかない。自立するか、縮むか、専門人材を確保するかである。しかしどれも政治的に極めて難しい。

自立は格差を容認することになる。縮む政策は選挙に不利である。専門人材は地方に来ない。成功例は存在するが、例外である。だからこそ、多くの自治体は何も決断せず、先送りを続けている。

◾️年金制度に仕込まれた分かりにくさ

年金制度も同じ構造を持つ。働く高齢者だけが減額される仕組み、繰下げ受給の「増える」という説明の裏にある調整、専業主婦を巡る分かりにくい比較。どれも、制度を守るために意図的に複雑化されている。

問題は不公平そのものではない。不公平を説明せず、見えにくくしている点である。

◾️静かな危機の正体

日本はすぐには破綻しない。個人金融資産があるからである。しかし、それは時間を買っているだけに過ぎない。国内でお金が回らなくなり、外から借りる段階になれば、金利と通貨で一気に表面化する。

この国が直面しているのは、財政危機ではない。事実を直視しないという、意思決定の危機である。静かに壊れていく国の姿は、既に見えているのかもしれない。

出典:
ビジネス動画メディアReHacQ
明治大学公共政策大学院教授 田中秀明

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